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アルツハイマー最新の脳科学 [アルツハイマー]

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アルツハイマー病は、高齢化社会や一人暮らし社会などの単身化社会となり、従来は老人病の認識が有りましたが、これが、若手を含めて広く増加しています。

この病は、徐々に色々の形で進行するために、本人はもとより、周りの者にも中々その発症が分かりづらい病で、気付かぬままに重症化しているのが現状です。

そこで、【この病にかかりにくくするにはどうしたらいいのか。】
脳神経科学者でお茶の水大学助教の毛内拡さんが最新の脳科学の研究結果を。
中尾篤典・毛内拡(著)、ナゾロジー(協力)『ウソみたいな人体の話を大学の先生に解説してもらいました。』(秀和システム)の一部を再編集し紹介します。

近年、このアミロイドβを標的とした抗体医薬品が、アルツハイマーの特効薬かと注目を集めていますが、アミロイドβの異常蓄積は、原因ではなく単なる結果に過ぎないという説もあり未だ統一的な見解は得られていません①。

これらのタンパク質は決して、年寄りの脳だけで作られるわけではなく、若い脳でも作られています。では何故に若い人は認知症になり難いのでしょうか。その答えは、

【脳の細胞と細胞の隙間にたまった老廃物を洗い流す】
自浄作用にあるといいます。脳の中では、脳脊髄液という液体が血液から作られ、1日に4~5回入れ替わるペースで頭蓋骨の下をゆっくりと循環しています。2012年に米国のロチェスター大学で行われた研究によると、どうやらこの脳脊髄液が脳組織の内部に浸透し、細胞と細胞の隙間にたまった老廃物を洗い流す仕組みがあるらしいことがわかりました②。

その後の研究では、この脳の洗浄が深い睡眠中に生じること③や体内時計と連動していること④などが次々と報告されています。

さらに、2016年米国のMITで行われた研究では、1秒間に40回点滅する光を見せることで、脳の老廃物の除去を促進し、アルツハイマー病モデルマウスにおいて認知機能の改善が見られることが示されました⑤。その後の研究では、光だけでなく、音の刺激やその組み合わせにも効果があることが報告されています。

脳は、神経細胞の電気的な活動によって情報をやり取りしていますが、その集団的な活動は、脳波として記録されます。この脳波の波の性質(振動数)を調べることで、寝ているか、リラックスしているか、集中しているかなどの体の状態がわかります。1秒間に40回という振動数は、ガンマ波と呼ばれる脳波で、動物が集中して何かを行ったりする認知機能に関わっているとされています。

一方、アルツハイマー病の患者では、このガンマ波が少なくなっている傾向があり、これが認知機能が低下することと関連があるのではないかと考えられているのです。

光や音の組み合わせの効果は、それらの刺激を1秒間に40回の行うことで、脳の電気活動がそれに「同調」を起こし、その結果、認知機能が改善したのではないかと考えられています。故に、このような技術は、簡易に行えるため、人間への応用への期待が高まっています。しかし、2023年には、40回の光や音刺激を行ってもアルツハイマー病は改善しなかったという反証論文も出ており、現在、脳科学の中で最もホットな話題となっています⑥。

【睡眠に加え、運動でも脳の中の水の流れが良くなる】
一方、点滅する光でなくても単に視覚刺激を行うことで、脳の老廃物を洗い流せる可能性があるということを示した研究結果が、アメリカのボストン大学の研究により示されています。
この研究では、チェッカーボードの模様を16秒間提示し、その後16秒間真っ暗にするという視覚刺激を1時間にわたり繰り返し行いました。その結果、脳脊髄液の流入が増加したというのです。これは、視覚刺激を繰り返して維持することで脳血流が増加したためだと考えられています。

さらに実は、睡眠だけでなく運動によっても脳の中の水の流れが良くなるという話もあります⑦⑧。これらの研究結果から、脳の健康の秘訣(ひけつ)は、とにかく働くときは働いて、思いっきり寝る、この様なメリハリに尽きるのかもしれません。

参考出典

① Lee J.-H, et al. Faulty autolysosome acidification in Alzheimer’s disease mouse models induces autophagic build-up of A β in neurons, yielding senile plaques. Nat Neurosci. 2022;25: 688-701 .

② Iliff J. J.,et al. A paravascular pathway facilitates CSF flow through the brain parenchyma and the clearance of interstitial solutes, including amyloid β . Sci. Transl Med. 2012;4: 147ra111.

③ Xie L. et al. Sleep drives metabolite clearance from the adult brain. Science 2014;342, 373-377.

④ Hablitz L. M, et al. Circadian control of brain glymphatic and lymphatic fluid flow. Nat Commun.2022;11: 4411

⑤ Iaccarino et al., Gamma frequency entrainment attenuates amyloid load and modifies microglia, Nature volume 540, 2016;pages230–235.

⑥ Soula et al., Forty-hertz light stimulation does not entrain native gamma oscillations in Alzheimer’s disease model mice, Nature Neuroscience volume 26, 2023;pages570–578.

⑦ von Holstein-Rathlou S,et al. Voluntary running enhances glymphatic influx in awake behaving, young mice. Neurosci Lett. 2018; 662: 253-258.

⑧ He X, et al. Voluntary Exercise Promotes Glymphatic Clearance of Amyloid Beta and Reduces the Activation of Astrocytes and Microglia in Aged Mice. 2017 10.3389/fnmol.2017.00144

中尾 篤典(なかお・あつのり) 医師、岡山大学大学院医歯薬学総合研究科救命救急・災害医学講座教授 1967年京都府生まれ。岡山大学医学部卒業。ピッツバーグ大学移植外科(客員研究員)、兵庫医科大学教授などを経て、2016年より現職。著書に『こんなにも面白い医学の世界 からだのトリビア教えます』『こんなにも面白い医学の世界 からだのトリビア教えますPart2』(共に羊土社)。

毛内 拡(もうない・ひろむ) 脳神経科学者、お茶の水女子大学基幹研究院自然科学系助教 1984年、北海道函館市生まれ。2008年、東京薬科大学生命科学部卒業、2013年、東京工業大学大学院総合理工学研究科博士課程修了。博士(理学)。日本学術振興会特別研究員、理化学研究所脳科学総合研究センター研究員などを経て2018年より現職。同大にて生体組織機能学研究室を主宰。専門は、神経生理学、生物物理学。著書に、第37回講談社科学出版賞受賞作『脳を司る「脳」』(講談社)、『面白くて眠れなくなる脳科学』(PHP 研究所)、『脳研究者の脳の中』(ワニブックス)。 -


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